破裂脳動脈瘤

  脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血を起こします。 逆に言えばくも膜下出血の多くはこの動脈瘤破裂が原因と言えます。 (外傷や他の疾患でも「くも膜下出血」になることがありますが、動脈瘤破裂は予後不良)

  くも膜下出血の一般的な症状は突然の激しい頭痛です。 日常的に少し頭痛があるからと言って、くも膜下出血を心配することはありません。 重症の場合は突然意識障害または心肺停止になることもありますが、軽症の場合は頭痛程度でもちろん意識もあって、会話、歩行などはふつうにできることもあります。

  軽症のくも膜下出血という表現は誤解を招く可能性があり、個人的にはあまり適切は表現ではないと考えています。 なぜなら、くも膜下出血は症状が軽くても命に関わる病気であり、軽い病気ではないということです。

  くも膜下出血の予後

  くも膜下出血は最初の意識状態でその後の回復の見込みがある程度予想できますが、一般的に発症すると4割程度は死亡、3割は障害を残す、残りの3割は社会復帰または自立した生活に戻れるということになります。 障害といっても、様々なレベルがありますが、ここで注目すべきは死亡や障害を残す率が低くない病気です。 もちろん、近年の医学の進歩で障害の程度が軽くなったり、回復が良好な症例も増えていますが、依然として「軽い」病気の扱いにならないということをわかっていただけたかと思います。

  くも膜下出血と診断されたあとに起こりうる「悪いこと」

   三大合併症とも言われます。

  1.   動脈瘤の再破裂: 動脈瘤は破裂し、くも膜下出血を起こしますが、通常自然に止血されている状態で病院に発送されます。 この止血されている状態があるからこそ、決定的なダメージを与えずに済んでいますが、この仮止血はそれほど強いものではなく、再度破綻する可能性がある状態です。 再度出血を起こす状態を「再破裂」といいます。 当然これが起こるとさらに意識状態が悪くなり、生命の危険性や後遺症の可能性が高くなります。 これを防ぐには手術が必要です。 
  2.   脳血管攣縮(れんしゅく): くも膜下出血は脳の表面に存在します。 脳を栄養する主幹動脈の周囲に存在するということでもあります。 出血そのものは徐々に吸収され、なくなりますが、この出血の影響で血管が刺激を受け、血管の壁にある筋肉が収縮する反応を起こし、血管の径が細くなります。 結果的に、脳への血流が悪くなり、脳梗塞などを併発することになります。 幸い、最近は予防薬などの使用により、これによる後遺症が残る可能性は10%程度まで下がっています。 しかし、完全に予防ができていないため、軽症の出血で、手術が問題なく終了した症例でも、この血管攣縮のために後遺症が残ったりすることがあります。
  3.   正常圧水頭症: 脳の周囲や内部に髄液という液体(水のように無色透明でさらさらしています)がくも膜下出血後の影響で淀み、頭蓋内に余分に貯留し、脳を圧迫している状態です。 くも膜下出血の1−2ヶ月後に発生することが多く、通常は手術でよくなります。 必ず発生するわけではなく、くも膜下出血の10%の患者さんは最終的にこの水頭症になり、追加の手術が必要になります。 症状は認知機能の低下、歩行障害、尿失禁などが主なものです。

 くも膜下出血の治療

   最適な治療とはなにかはそれぞれの患者さんによって、異なります。 緊急を要する状態でもあり、ここでは手術の基本的な考え方についてのみ述べることにします。

   手術は脳を回復させるものではない: 手術は脳動脈瘤の再破裂を防ぐものであり、脳の状態をよくするものではありません。 開頭手術では脳にとって、負担がかかることになり、もともと重症の場合、開頭手術によって、機能回復が悪くなるということにもなります。 よって、重症のくも膜下出血の場合、開頭手術を断念せざるを得ないこともあります。 血管内治療は脳を直接触ることはないですが、同様に手術により意識の回復がよくなるわけではないので、回復の見通しが悪い場合は治療を同様に断念することがあります。

   開頭手術か血管内手術か:  大きな原則として、血管内手術のほうが脳への負担が少なく、開頭手術と比べて回復が良いとされています。 (アメリカの治療ガイドラインへリンク) しかし、再破裂前に治療することが重要であり、血管内治療に適していない形状の動脈瘤もあり、すべてのケースにおいて、どの治療がよいか様々な要因が関係するため、はっきりとした線引きは困難です。 全国規模でみると開頭手術と血管内手術の割合は50:50程度です。

   手術以外の治療も重要: くも膜下出血は再破裂予防は最も重要ですが、全身管理、脳血管攣縮の予防、早期発見なども重要な要素になります。

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