このページでは硬膜動静脈瘻の自然経過について説明します。
病気があることは悪いことのように思われますが、その病気がどの程度悪さをするかを冷静に判断した上で治療を決定する必要があります。 基本的なことと思われるかもしれませんが、必ず実行されているとは言えない状況も多いのです。
硬膜動静脈瘻は様々な形で悪さをします。(硬膜動静脈瘻の症状の仕組みを参照) 脳出血やけいれんなどの重篤な症状を起こした状況では当然治療が必要となりますが、症状が出現する前や耳鳴りなどの「良性」の症状がある場合は治療の必要性を慎重に考える必要があります。
多くの場合、硬膜動静脈瘻が悪さをする条件としては脳の静脈に逆流がある状態が原因です。 この静脈逆流の有無によって分類され、治療方針を決定するのが標準的な考えです。 (硬膜動静脈瘻の分類を参照)
よって、この「逆流」が大きなキーワードになります。 簡単に言えば、逆流がない状態では、脳出血などの重篤な症状の心配はありません。
さて、そこで問題になるのは、逆流がない状態で発見された場合、その後の経過でどの程度の確率で逆流が出現してくるのかということです。 実はある信頼できる調査によると12.5%の症例は自然治癒にいたり、逆流が途中で出現してきたのは4.0%のみです。 英文の論文で専門用語も多いですが、詳細をご覧になりたい方はこちらをご参照ください。
ここで言える結論は「逆流がない状態では、逆流がある状態に変化するのは多くないどころか、自然治癒に至るケースのほうが多い」ということです。
次に問題になるのは逆流をどのようにして確認するかということになります。 逆流も含めて、硬膜動静脈瘻の構造を確認するには「脳血管撮影」という検査が最も正確ですが、負担がある検査であり、MRIによる確認が有用と考えます。 しかし、MRIの読影(判断)には慣れが必要です。
当施設では耳鳴りのみを理由に硬膜動静脈瘻の治療を行ったことはありません。 耳鳴り自体は血流を表すものであり、逆流を意味するものではありません。
耳鳴りのみで治療を求める患者さんがいることをよく耳にしますが、自分の経験上、上記のような説明をちゃんと理解できるまで説明すると耳鳴りがあっても安心できるようになり、無理に治療を求めることはありません。
このように考えると逆流がない硬膜動静脈瘻の自然経過は悪くなく、この状態で治療を行うのであればその治療は極めて安全なものでなければならないのです。