海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻は頚動脈海綿静脈洞瘻とも呼ばれますが、この2つは異なる病態であり、厳密にわけて呼ぶ必要があります。 前者は硬膜動静脈瘻であり、それが「海綿静脈洞」という部位にできて、そのような呼び方になっただけです。 それに対し後者の頚動脈海綿静脈洞瘻は外傷や動脈瘤破裂で病気の成因が異なります。  治療や病態も異なります。

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の特徴

  海綿静脈洞は頭蓋底の中心部にあり、頭蓋内の静脈の流れを大きな交差点の役割をしています。

海綿静脈洞部の構造を示すイラスト: このように海綿静脈洞は様々な系統の静脈の連絡する「交差点」のような役割があります。 これらの連絡は個人差があり、その解剖の理解には十分な画質の画像および読影力を必要とする。

 このイラストのように、海綿静脈洞様々な静脈の連絡の役割をしており、ここに「シャント」が発生すると静脈の中の圧力が高まって、様々な系統の静脈に問題を起こすことになります。 そのシャントの流れのパターンによって、症状の出現の仕方が異なりますが、この部位で多い症状としては眼球結膜の充血(赤目)と眼球突出です。 さらに海綿静脈洞内には眼球の動きを担当している神経が走行しており、「眼球運動障害」によってものが二重に見える「複視」が発生します。

 目の症状と関係なく、脳の静脈に逆流が発生すると脳出血などを起こすことがありますが、これは自覚症状として事前に感じることができず、画像検査(MRIや脳血管撮影)を行う必要があります。

 以下にイラストで海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の症状発生の仕組みを解説します。

正常海綿静脈洞の流れ

正常な海綿静脈洞の静脈還流を示すシェーマ。 海綿静脈洞は脳や眼窩内組織から静脈血を受け、頭蓋外へ様々なルートを通じて流出路の役割をしている。 発達の程度は個人差がある。

海綿静脈洞に硬膜動静脈瘻が発生した状態

この状態ではシャント(赤い血液が静脈側に流れ込んでいる)が発生しているが、その流出は頭蓋外へ流れるのみ。 この状態では通常症状があるとしても耳鳴り程度で、重篤な症状を起こすことはない。 ただし、この状態でも複視など目を動かす神経に問題が発生していることがあります。

シャントの量が増加または正常な流出路が閉塞すると…

このパターンでは黄色い矢印のように眼球側に静脈が逆流し始める。 この状態では目の充血や眼球突出などを起こし、この状態に気がつくことがある。

この状態になると脳の静脈へ逆流が発生し、けいれんや脳出血などの危険性が伴う。 この時期には目の症状などがはっきりしないこともあり、自覚的にこの逆流に気づくことが困難であることが多い。

海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の症状

自覚症状としては上述のとおり、目の症状が中心になります。

左側の目に症状が出ている状態の画像。 この状態では患者さんの左側に目を向かせようとしても左目は外を向くことができない(左外転神経麻痺)。 さらに充血していることがわかる。 通常の目の炎症性疾患と所見が異なるので、通常は視診で診断することができる。

海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の治療

 この部位の硬膜動静脈瘻の治療はまず血管内手術が唯一の治療法と言ってほぼ間違いない状況です。 通常は静脈側からカテーテルを通し、シャントがある部位に塞栓(コイルでつめること)をします。 完治率が高く、多くの場合は1回の手技で治療が完了します。 しかし、治療によって、正常な流出路が閉塞し、脳への逆流を誘発することもあり、十分な血管解剖の理解と十分な解像度の画像が揃っている状態で十分に読影することが必要です。

  治療は通常静脈側からカテーテルを通し、コイルなどで塞栓します。 これを経静脈的塞栓術と言います。 海綿静脈洞内部の構造が複雑なケースや海綿静脈洞にカテーテルが挿入できないケースがあり、治療にはいくつかのコツと注意点があります。 著者は基本的には下錐体静脈洞(inferior petrosal sinus, IPS)という経路から海綿静脈洞に進入し、塞栓を行う方法を第一選択にしており、十分な解剖学的知識および高画質の画像評価があればほぼすべての症例でこのからのアプローチで治療ができると考えています。

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