頚部(首のところ)の内頚動脈(脳に血流を送る主なルートの血管)に動脈硬化が発生し、血管の壁が厚くなって、血液が通りにくくなるという状態です。 日本にはそれほど多い病気ではなかったのですが、ここ2000年を過ぎてから、よく発見されるようになりました。 その理由として、食生活の変化および発見の医療機器の発達の影響があると考えられます。
治療を判断する際に知っておくべき病態
頚動脈狭窄は「細い」から広げるのではなく、病態に合わせた考えが必要と考えます。
では、なぜ頚動脈狭窄があると脳梗塞になるかを解説します。
細くなれば血流が悪くなって、脳梗塞になりやすいという考えは多くの症例では当てはまりません。 内頚動脈は通常5mm程度の太さがあり、7割程度細くなっても脳の血流の低下が起こらない余裕がる作りになっています。
塞栓症による脳梗塞
塞栓症: これによる脳梗塞が最も多いです。 狭窄部は砂時計のように細くくべれているだけではなく、実は動脈硬化を起こした血管の壁(血管内壁)は正常な壁と異なり、傷口のような状態になっていることがあります。 傷口があると通常は止血のために痂皮(かさぶた)が形成されますね。 血管の中でも傷口があると痂皮が形成されます。 この痂皮が自然に消えないまま、血流に流されてしまうと、パチンコ玉を転がすように下流へ流れます。 この下流の血管が脳の血管であれば脳梗塞を起こします。 このように「かさぶた」が飛んで、下流の血管が閉塞することを「塞栓症」といいます。
多くの場合、この「かさぶた」は小さく、一時的な症状しか起こしませんが、これを一過性脳虚血発作といいます。 難しい言葉が並んでいますが、詳細は用語集でご確認ください。 症状の多くは一時的で5分から10分で落ち着きます。
血行力学的な脳梗塞
低灌流による症状: 灌流とは血液が組織を潤うことと思ってください。 もっとわかりやすく例えると物の運搬のための交通量ということになります。 血管が細くなると当然血流が減って、その組織の灌流が少なくなります。 これを低灌流と表現し、血流が減って問題が起こる現象を血行力学的な問題といいます。
このように狭窄があると血流が低下し、すぐに脳梗塞になると想像されがちですが、頚部内頚動脈で言えば基本的にはもともとの径の半分に狭窄があっても血流(灌流)が低下することはありません。 言い換えれば上記の「塞栓症」さえ予防できれば脳梗塞の心配はないということです。
では、どの程度まで狭窄があると血流が低下するのでしょうか。 これはひとつの答えはないというのが正解です。 なぜなら、脳のある部分が一つの血流の供給源からしか血流をもらわないというところは実際少ないからです。
ここでも道路の交通網に例えるとわかりやすいと思います。 幹線道路が閉鎖されても、どうにか迂回路をみつけて目的地まで行くことができることがあると同じように、太い血管が閉塞する場合、この迂回路(医学的には側副血行路)があれば脳梗塞を逃れることができるということです。 この迂回路が機能するかどうかは閉塞部位に依存するし、個人差もありますので、完全に予測することができませんが、ある程度経験的にその傾向を予想することができます。
例えば、この頚部内頚動脈が閉塞したとしても8-9割の人は脳梗塞を起こすことなく、その側の脳は反対側や後ろの血管から血流をもらうことができます。
このように考えると血行力学的な問題で脳梗塞を起こすことはそれほど多くないということがわかっていただけたと思います。 しかし、上述の「塞栓症」は抗血小板剤などの血液をサラサラにする薬が有効であるに対し、血行力学的な問題は血行再建(血管を広げる、バイパス手術)などが必要です。 症状ができている場合が早急の対応が必要となります。