脊髄硬膜動静脈瘻

  脳と頭蓋骨の間に硬膜があると同様に脊髄にも硬膜が存在します。 よって、この部位にも硬膜動静脈瘻を生じることがあります。(厳密には硬膜の問題というよりは静脈の問題ではあります)  硬膜動静脈瘻の一般的な概念については硬膜動静脈瘻のページをご参照ください。

   脊髄の血管障害(血管の病気)はすべての種類において、まれです。 よって、この脊髄で生じる硬膜動静脈瘻もまれな病気と言えます。 (正確といえるデータは少ないですが、数十万人に一人(1年あたり)の発生率程度です)

    しかし、まれであるから無視して良いという意味にはなりません。 なぜなら、脳の硬膜動静脈瘻と同様、治療が効果的で、症状の改善が期待できるからです。 

脊髄硬膜動静脈瘻の概念を示す図: 脊髄の血流の「出口」である静脈の一部に「シャント」が形成され、逆流が発生しています。 これによって脊髄に「うっ血」が起こり、様々な症状の原因になります。 この例ではちょうど反対側の血管に正常の脊髄の血管があることを示しており、このように正常血管が近くから出ていることがあり、塞栓術の場合、正常な脊髄の血管を閉塞させる危険性があります。

    脊髄硬膜動静脈瘻の最大の問題点は診断が難しいことです。 疑うところから診断が始まりますが、まれな疾患故にこの疾患を知っている医師は当然ながら少ないです。 

    脊髄硬膜動静脈瘻の一般的な症状

     歩行障害が最も多いです。 典型例としてはゆっくり進行する歩行障害という形をとります。 当院に到着する時には半年程度経過することも少なくありません。 例えば。。。 「1年前の夏ころから徐々に両足のしびれ感を自覚し、様子みていたが、改善がなく、徐々に歩ける距離も短くなり、受診の2ヶ月前から杖歩行となった。 他の病院を受診したが、ヘルニアなどの診断のみで治療を行ってもよくならない。」 という経過が多く経験されます。 上記の歩行障害に加えて、脊髄の働きのひとつである排尿障害なども発生してきます。 

    診断が最終的にできて、適切な治療が行われることが理想ですが、長期にわたり脊髄にむくみが生じている状態では症状は完全に戻らないことも多く、早期の診断と治療が望ましいです。 

   診断が最後までつかない場合は当然当院に紹介されることもないため、原因不明扱いとなり、生活に大きな支障をきたすことになります。 膀胱や褥瘡(床ずれ)が発生しやすく、最終的にはこれらによる感染症で命を落とすことがあります。

 脊髄硬膜動静脈瘻の画像診断

  この疾患を念頭に画像を読む(読影する)ことで診断することが多くの場合できますが、認知度が低い疾患である故に診断が遅れることが非常に多い疾患です

  画像診断のポイントはMRIでの脊髄の浮腫(ふしゅ=むくみ)の変化と脊髄の周囲に血管の異常信号が見えることです。 これらの異常はMRIのT2という撮像で確認されます。 脊髄の浮腫があるが、血管の異常信号がはっきりしない症例も存在します。 上記の症状に加えて、脊髄の浮腫性変化がある場合はこの疾患が否定されるまで、除外することができません。 

  血管の異常信号がないからと言って、この疾患を否定されてしまうことは残念ながら、少なくありません。 10%-15%程度で血管の異常信号がなく、脊髄のむくみのみで発症することがあります。

  脊髄に浮腫のような所見を起こす疾患は「脊髄炎」などのものがありますが、脊髄炎を疑う場合でも必ずこの疾患を鑑別に挙げる必要があります。 治療しても悪化する一方の脊髄炎は特に注意が必要です。

 脊髄硬膜動静脈瘻の典型的な画像所見

 典型的な脊髄硬膜動静脈瘻のMRI所見: 脊髄の内部に白い浮腫(むくみ)がみえます。(水色の矢印) さらに黄色い矢印の先端に黒く抜ける血管の信号があります。 これらは異常に拡張した静脈の所見であり、この2つが揃っている状態ではまず脊髄硬膜動静脈瘻という診断をすることができます。
左は治療前の状態で、前の画像と同様に周囲の血管の拡張がみられ、脊髄の内部が白くみえて、浮腫を起こしているのがわかります。 右の画像は治療(今回の場合は塞栓術(カテーテルの治療)後の画像であり、血管の異常な拡張は消失しており、脊髄の内部も濃い灰色という正常な状態に戻っていることがわかります。

 誤診や遅診は残念ながらよくある!!

  誤診(診断が間違っている)や遅診(診断が遅れる)はこの疾患においては例外ではなく、むしろすぐ診断がつく症例は少ないです。
  診断については以下のような興味深い論文があります。 この論文の著者のチームリーダーと東京で食事した際の会話ですが、東京の人口から考えると脊髄硬膜動静脈瘻で診断がちゃんとされず、治療も受けられない患者さんはたぶん3000人くらいはいるでしょう!とのことでした。 まれな疾患と一般的に言われていますが、実は診断ができていないだけだろうという恐ろしい内容でした。 これは個人の感想ではありますが、それを裏付ける論文があります。 実際他の病院で血管撮影の精密検査を行ったとしても、見落としがあるという論文へのリンクがこちらです。(AJNRの論文) 我々のところでも他院で十分に検査を行ったが、最終的に診断ができ、治療ができた症例もありました。 

   脊髄炎と診断され、ステロイドなどの治療を受けても改善がみられない場合はこの疾患を徹底的に検索する必要があります。 (多くの場合、理由はわかりませんが、この疾患はステロイドの治療のあとに症状が悪化します。)

専門医による血管造影(カテーテルの検査)を行なったとしても、不十分な検査であることは珍しくない。 

この疾患の診療に慣れた施設で検査を受け直すことが重要です。

 脊髄硬膜動静脈瘻の治療

   治療は大きくわけて、血管内手術(塞栓術、カテーテルの治療ともいいます)と切開による手術です。 いずれの方法も有効でありますが、血管内手術の場合、十分な脊髄の血管解剖に熟知しているかつ脊髄血管障害の治療経験が十分にある術者に依頼する必要があります。 

   血管内手術は負担は少ないですが、切開手術による治療のほうが安全である場合があるという言い方は不思議に感じるかもしれなせん。 いずれにしても脊髄硬膜動静脈瘻の適切な治療法は十分な経験をもつ術者と相談することをすすめします。

   通常治療すると症状の改善は得られますが、治療前の症状の進行が強いほど後遺症が残ります。 一般的には治療前の症状の3割程度に改善しますが、しびれなどは後遺することが多いため、症状があまり進まないうちに治療することも重要ではあります。 (運動機能は多くは改善、排尿障害もほとんどの症例で改善、しびれのような感覚障害が残りやすいという印象があります)

 診断の重要性

   繰り返しになりますが、この疾患は治療可能な疾患です。 正しい診断が早期にできることによって、治療が行われることが重要であり、この情報源がよりたくさんの患者さんが正しい診断に辿りつくきっかけになれば幸いです。

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