未破裂脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤は文字通り、まだ破裂していない動脈瘤のことをいいます。 上述のとおり、通常は症状を起こすことはありませんので、発見のきっかけは脳ドックや他の関連性のない症状で発見されます。
成人の場合、MRIなどの検査で脳動脈瘤が発見されることは2%程度あります。(報告によって多少の差があります) 発見されることはそれほど珍しいことではないということです。
未破裂脳動脈瘤に対する治療
未破裂脳動脈瘤を治療すべきかは脳神経外科医にとって、永遠の課題です。 不思議に思われるかもしれませんが、すべての脳動脈瘤は治療受ける必要がないということです。
未破裂脳動脈瘤がみつかったけど、治療するべきかどうか…
治療を考えるときに必要な情報は「破裂率」と治療のリスク
破裂するまでは症状を起こさないということは破裂さえしなければ問題がないということではありますが、ほとんどが予兆なく突然破裂するものであるため、安心のために治療を受けておきたいという心理が働くのは当然です。 しかし、実際どの程度破裂するものかをよく知る必要があります。
全国調査で破裂率に関する詳細のデータがあります。 (詳細論文へのリンク) ようやくすると、約6700個の未破裂脳動脈瘤を観察し、どの程度破裂しやすいかという研究です。 この論文では動脈瘤の破裂率は動脈瘤が存在している部位および大きさ、不整形の有無などの影響を受けるという結論となっています。 5-6ミリ程度の中型の動脈瘤は年間 0.3-1%程度破裂するということがわかりました。 この数値をみる限り、破裂率はそれほど高いものではないということがわかります。 また部位によっては同じ大きさでも破裂率が3倍以上異なることも教えてくれました。 (ただし、この論文では一部の動脈瘤は治療されており、治療受けていないグループは破裂しにくいと判断されたものが多く含まれている可能性があります)
治療の危険性がゼロではない限り、上記の理由よりすべての動脈瘤は治療を受ける必要はないということをわかっていただけたかと思います。
一番大きな問題点としては、破裂する確率がわかっていても、破裂を予想することができない。 これが患者さんの不安につながる原因です。
未破裂脳動脈瘤の治療方針
先ほど述べましたように、この治療は脳神経外科医の永遠の課題です。 仮に50才で動脈瘤が発見されて、年間破裂率が1%だとしても、生涯破裂しない可能性のほうが高いということがわかります。 さらに年齢が高くなればなるほど、治療のメリットが減ってくることがわかります。
医学が進歩すると病気が発見される機会が増え、さらに治療機器が揃っている状態では、治療しようと思えばできるという場面がよくあります。 しかし、方法があるからといって、やるべきであるかどうかは別の問題です。
結論としては正解はありません。 脳卒中治療ガイドラインというものは存在しますが、未破裂脳動脈瘤の治療はそれぞれの施設や担当医の方針の考えに依存することは事実です。 慌てることなく、情報を正しく収集し、判断するしかありません。
未破裂脳動脈瘤の中でも治療するべきものがあります。 観察中に増大または形が変化した症例がその一例です。 破裂の前に一部の動脈瘤では局所的な痛み(頭痛)が先行するもあります。
手術治療を行わない場合を保存的治療といいます。 動脈瘤の破裂のリスクとなる高血圧の治療や禁煙が重要です。 多くの場合は定期的なMRIでの経過観察を行います。
症候性の未破裂脳動脈瘤
破裂してないが、症状を起こす動脈瘤があります。 特に重要なのは目の症状で発症する「切迫破裂」の状態です。
特定の部位に動脈瘤があり、これが神経に接触し、破裂前の炎症反応が起こると破裂する前にその神経の症状を起こすことがあります。 この状態を切迫破裂といいます。 つまり、破裂するのは時間の問題ということです。
典型的なケースとしては目が二重に見える症状から始まります。 最初に目が二重にみえて、しばらくするとまぶたが下がっているという状態になります。 自分では気づくことが難しいですが、通常同じ側の目の瞳孔(瞳の部分)が反対側より大きくなる現象を伴います。 これらの症状は片側の目で起こり、医学的には「動眼神経麻痺」(どうがんしんけいまひ)という現象です。 目が二重にみえる、まぶたが下がってくる、瞳孔が反対側より大きくなっているという3つが揃った場合は非常に高い確率でこの切迫破裂の状態であることになります。 早期に(仕事を休んででも翌日の日中などに)専門病院を受診する必要があります。 破裂を起こしてしまうとくも膜下出血を起こしてしまうからです。
眼科を受診して、上記が疑われて、脳神経外科に早期に紹介されないことも残念ながら遭遇することがあります。 しかし、これは脳動脈瘤の存在を一度否定する必要がある病態です。 著者は大学で医学生を指導しており、この病態についてはしつこく教育し、卒後にどの科に所属してもこの危険な病態を見逃すことがないようにしています。