硬膜動静脈瘻の治療について
このサイトを作成した目的でも述べていますが、硬膜動静脈瘻の治療は非常に効果的でそのほとんどは完治が得られます。 しかし、治療が不適切に行われると状態が悪化することもあります。
治療によって病状が悪化する代表的なパターン
- 治療の必要度が少ないにも関わらず、危険な治療を行う場合(耳鳴りなど良性な症状に対する治療など)
- 治療の計画が悪く、完治できないどころか、静脈の還流が悪化したらい、続きの(リカバリーの)治療がより困難になったりする場合
などがあります。 イラストでその仕組みを説明していますので、ご参考にしていただければ幸いです。
硬膜動静脈瘻の正しい治療は以下のように考えることができます。
治療の目的: 完治が基本となりますが、ケースによっては完治を目指す治療の危険が高く、病気の構造の中で特に危険なところのみ治療することがあります。 逆にこの危険な部位がうまく治療で処理できない場合は治療後でも出血などの危険性を下げることができないこともあります。
治療の方法: その治療の目的にあった方法を計画し、治療することが重要ですが、共通して言えることは「異常な静脈の血流を減らすこと」です。 これを達成するのに治療の多くは血管内治療で行われますが、まれに(5%以下)で開頭手術がより安全で適切な治療と言える状況もあります。(頭蓋頚椎移行部硬膜動静脈瘻、前頭蓋底の硬膜動静脈瘻、テント部硬膜動静脈瘻、脊髄硬膜動静脈瘻などの順で切開による手術が選択されることが多い傾向にあります)
治療の効果: 治療が適切に行われれば、90%以上の症例は一回の治療で完治を得ることができます。 残りの症例は様々な理由で治療を複数回にわけて治療することもあります。
硬膜動静脈瘻の治療(経静脈的塞栓術)
硬膜動静脈瘻の治療は基本的には静脈側を閉塞させることが基本となります。 シャントが形成されている部位やその構造によりますが、多くの場合は静脈を経由して塞栓します。(経静脈的塞栓術) 正しく行われれば効果が高い治療となりますが、治療で正常な脳の静脈還流を障害しないようにすることがもっとも重要です。 以下に治療のイメージを示します。
後述の経動脈的塞栓術と異なり、治療のカテーテルが罹患静脈内にあるので、コイルによる塞栓が直接できます。 このような状況では治療は比較的容易であるが、罹患静脈を塞栓し、正常の静脈還流に関与している静脈を残してあげることが重要です。 これらの見極めが難しいケースがあり、十分な画像の解像度および読影力を必要とします。

硬膜動静脈瘻の治療(経動脈的塞栓術)
経動脈的とは動脈を経由し、治療することを指します。 上述のとおり、経静脈的塞栓術がこの疾患の治療の基本となりますが、静脈の閉塞や、部位によって、構造的に静脈からの塞栓ができない場合があります。
動脈からの塞栓を行う場合でもその治療の目的は罹患静脈を閉塞させることです。 動脈側から到達する場合、罹患静脈には通常直接入ることができず、主に液体の塞栓物質を注入し、静脈まで到達させます。 罹患静脈が閉塞するとシャント自体が消失し、完治または問題箇所のコントロールが可能となります。
動脈からの塞栓の場合、塞栓物質が正常動脈に流入するリスクがあり、この治療に精通している術者が行うことが治療の条件と言えます。
さらに動脈をコイルなどの塞栓物質のみで治療するような経動脈塞栓術は根治が得られないだけではなく、その後の治療を困難にさせる可能性があり、一部の例外を除き、行うベキ治療ではありません。
正しい治療のために必要なこと:
硬膜動静脈瘻は残念ながら正しく治療されていないことが多いことも事実です。 たとえそれが血管内治療専門医による治療であっても、必ずしも期待される通りの結果にならないケースも時々みかけることがあります。 その理由として、1)硬膜動静脈瘻は比較的まれな疾患で、経験することが少ない疾患であること 2) 構造が複雑で、十分な血管撮影装置および読影能力が必要とされることなどが挙げられます。
国内脳神経血管内治療の急速な普及により、緊急性が高い治療への期待が高まる一方、遭遇することが少ない疾患に関しては以前よりも症例が分散し、治療の質が下がることが懸念されるのも事実です。
最後に:
治療をする前に病気の自然歴(自然経過)をよく理解する必要があります。 こちらのページで自然経過について説明します。